メゾン・エ・オブジェの9月はクリスマス商戦向けのインテリア・生活雑貨とアウトドア関連が中心ですが、今年は見本市の主催社であるSAFIが第一回パリ・デザイン・ウイークを立ち上げたため、例年に増して発信性が強くなりました。近年ビジネスがグローバル化してくると、見本市も1年に1回の開催では追いつかず、そのため常にフレッシュな情報が世界から集まっているという演出が求められるようになってきています。
パリの北、シャルル・ドゴール空港に近いヴィル・パント(松の街)と呼ばれ周辺には松林が残る郊外に見本市会場はあります。ここでメゾン・エ・オブジェは年2回開催されます。
サローネと同様、世界のデザイン・ジャーナリストが最新情報を求めて集まるメゾン・エ・オブジェは、ホール毎にコンセプトと商材が振り分けられます。中でも特にデザイン性が強いのはホール7にある「now!」です。now!は、ビジネスというよりも新人発掘、これから伸びる商材を見つけるゾーンですが、ここ数年、各国政府が国内のデザイン振興をするための出展が目立ってきました。今年1月には日本から若手デザイナーを紹介するブースが出ましたし、この9月はシンガポール、タイ、スエーデンといったところが出ています。これからのグローバルな産業政策として、まずは90年代にイギリスが始めたデザイン振興策(若年層の失業対策の意味合いが濃かった)をなぞらえ、オリジナルな発想を持つ若手人材の発掘・育成が欠かせないという判断があります。
スエーデンは近年、政府が厚いデザイン政策をとり、北欧諸国の中でも一歩先を行き始めています。
東京の小規模なガラス・メーカーに特殊技術を見込んで製作依頼してくれたシンガポールのパトリック・シャ氏(製品は中央と右のガラス容器)。シンガポールにはこういった手仕事はないこともあり、日本の中小製造業の技術をとても高く評価してくれます。
ホール7の入口には、メゾン・エ・オブジェの主催社であるSAFIとパリ都市開発局がスポンサーする「TALENTS」というコーナーがあります。東日本震災への応援歌と、日本に住んだことがあり大の日本好きとして知られるエチエンヌ・コシェ社長の存在もあって、今年は6組の日本若手デザイナー集団がフィーチャーされました。中には三宅一生さんに推薦された高島一精さんが入っていたり、箱根寄せ木細工の若い職人達がグループとなった雑木囃子、また金沢卯辰山工芸工房出身の若手作家達がいます。特に自分の手で素材の段階から丁寧に作り上げる日本の工芸作品は、すでに国内でそのような手工芸産業をほとんど失ってしまった仏・英・独のビジターの目にあらためて新鮮に映ったようでした。
ホール7の入口に設けられた「タレント」というコーナー。初日にはアランドロンなど有名人も来て華やぎを添えたそうです。
見本市の目玉となる「TALENTS」に招待された卯辰山工芸工房出身の若手作家達。パリ市内の弊社TDCのギャラリーでは、13人の卯辰山工芸工房作家展を11月まで開催します。
ホール7の「now!」ゾーンでは新進のデザイナー達がしのぎを削っています。中でも「molo」はメディアだけでなくバイヤーからも、リブ状の「紙」を間仕切り壁で高い関心を引いていました。経営するのは米建築家夫婦で、彼らが設計コンペをとった「ねぶたハウス」が昨年青森市に建設されています。
サンディ・チルウイッチ氏はもとはストッキングの会社勤め。1997年に左のストレッチ布を3段ボウルにした製品(長男の名前をつけたRay Tray)をヒットさせ、今や世界のテキスタイルメーカーとなりました。近年は建築家である夫も加わり、建築用床材にも進出しています。
毎年のメゾン・エ・オブジェで最も活躍する日本人デザイナー島村卓実氏は、セーヌ河畔に新設されたCite de la Mode et du Design(モードとデザインのシティ)に入居するよう、熱いラブコールを送られていました。百人単位しか入居できないところ、すでに700を超す申し込みがあるそうです。
ブナコは樹の細幅テープを巻いてボウルなどを作る、cuioraは米袋を縛る紙バンドのメーカー。そこで両者の協力でできたのが、紙バンドで作る照明の傘です。アジア製品に比べ格段に高価格ですが、オリジナリティとクオリティから、ドイツを中心として注文が入っていました。
今や東北のクラフト産業の代表選手となったブナコ。写真の壁つけ照明は以前に日本で発表されたときは関心が薄かったそうですが、メゾン&オブジェで高評価でした。やはり照明の扱いが彼我では違います。
江戸小紋染め「二葉」の小林社長もメゾン・エ・オブジェの常連組です。毎回売り方を工夫してて、今年はがま口を10個セットで出しました。これまでは作る商品カタログにこだわって、載せている染め柄以外はもって来なかったのですが、それでは自らの強みが出せないと気づいたのだそうです。そこで多種多様な染め柄を特定せず10個一括で売りに出したところ、いろいろな柄が楽しめると完売。
今年フランスのクラフト作家達が集まったゾーンが出現していました。21世紀は生身の人間が演じるスポーツへの熱狂と同様に、ハンドメイドへの回帰の兆しを感じます。
フランスでも伝統的な手工芸をコンテンポラリーな表現で生まれ変わらせようとしています。
一方、会場内に目立ち始めたのが3D印刷を使った製品でした。以前なら金型を含めて製作コストが合わないために手工芸に回されていたような製品が、3D印刷によって大量生産できるようになったのです。もちろん時間と人手をかけたハンドメイド製品に比べるとクオリティはまだまだですが、アイディア一発勝負で生まれてくるこれまで見たことのないような形までも作り出せるので多彩です。 昔は捺染技術を競った複雑なパターンのファブリックスが今や日本製の印刷機で安く作られるようになったのと同じで、ここでもまた人間の手業が駆逐されていくのかと若干疑問になります。
3Dプリンティング製作でカゴの中の鳥をオーナメントにした製品。
樹脂系の素材を3Dプリンティングでプロダクト化すれば、複雑な形状の照明の傘でも耐火性や耐久性をクリアできるのです。
船曳鴻紅